GROUP 01
◆GROUP 01
単語の意味の誤読による、単純な誤訳の例群。
端的に、単純な単語単位の誤読によるものなので、比較的容易に修正は可能なタイプである。
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◎例
第5巻で、布団の上で、百目鬼が、濡れた矢代の髪をタオルで拭くシーンの会話より。
ここでは、矢代を指す「頭(かしら)」という語が、「頭(あたま)」と取り違えられ、百目鬼のセリフが「俺のアタマはおかしくないです」というふうに誤読・誤訳されている。
その1点以外にも、細々と誤読・誤訳箇所が混ざっているが、逐一指摘する紙幅はないので、以下を一読してほしい。そうすれば、どこがどのように修正を要していたか、おわかり頂けるだろう。
Yashiro
"Ow…it hurts…
——As I thought, you really are weird."
Doumeki
"...Is that so?"
Yashiro
"You said you'd never met or seen anyone like me before, but...
I am absolutely certain you're weirder than me."
Doumeki
"...I don't think that is true."
Yashiro
"Yes, it is. Because I'm the one who thinks so."
Doumeki
"Boss, you aren't strange."
Yashiro
"......
The futon...
is getting wet…"
矢代
「いって…
—お前やっぱ変わってんな」
百目鬼
「…そうですか?」
矢代
「前に俺のこと 会ったことも見たこともねーっつってたけど
絶対 お前のが変だよ」
百目鬼
「…そんなことないと思います」
矢代
「そんなことあるよ
俺が思うんだから」
百目鬼
「頭は変じゃないです」
矢代
「……
布団… 濡れ…」
この部分の公式英語版既刊における英訳と、筆者によるその日本語対訳は、以下のとおりである。
Yashiro
"Ow...
As I thought, you really are weird."
Doumeki
"Am I?"
Yashiro
"You said you'd never met or even seen me before, but...
If that's true, there's definitely something wrong with your head."
Doumeki
"I don't think that's true."
Yashiro
"It is. Because I think so."
Doumeki
"There is nothing wrong with my head."
Yashiro
"...
The Futon...
is getting wet…"
矢代
「いって…
思ったとおり、お前やっぱ変わってるな」
百目鬼
「そうですか?」
矢代
「前にお前、俺には会ったことも見たこともなかっただろうっつってたけど…
もしそれがホントなら、ぜってーお前のアタマにはなんかおかしなところがあるよ」
百目鬼
「そんなことないと思います」
矢代
「そんなことあるよ
俺がそう思うんだから」
百目鬼
「俺のアタマにはなんにも変なところはありません」
矢代
「…
布団… 濡れてきて…」
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◎例
1巻の矢代と三角の会食シーンでの矢代の内省より。
彼らふたりの「舎弟関係」は、本質的に「兄弟関係」ではなく「親子関係」に当たることを理解できていないために生じている誤訳例。また、「最初の一年程」という部分が「当初は」と過度に大味な言葉に改変されている。最後に、彼らふたりの場合もそうであるように、日本語での「愛人」は、英訳時にはそのまま忠実に ”mistress” としたほうが適している。”lover(恋人)” ではニュアンスが甘すぎると感じる。
Yashiro (in his mind)
"We had a physical relationship and I was like his mistress for the first year or so, but now, we’ve become totally like father and son."
矢代(心の中で)
「最初の一年程愛人よろしく体の関係もあったが
今やすっかり舎弟関係」
元の英訳と、その筆者による日本語対訳は、以下。
Yashiro (in his mind)
"We had a physical relationship and were like lovers at first but now, we’re practically brothers."
矢代(心の中で)
「当初は、肉体関係を持ち、恋人同士のようだったけれど、
今では実質、兄弟関係だ」
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◎例
第3巻より。
ここでは、ヤクザにとっての「面子(★ルビ:メンツ)」が、「見栄」の類義語ではなく、麻雀の「面子」というさいに使うような「人員」という意味に誤読され、誤訳されている。
Yashiro (in his mind)
"Suppose someone was to ask me what is indispensable to the Yakuza.
I would perhaps answer like this.
Number 1:
Money
(The brains to make it).
Number 2:
Money
(The initiative to obtain it).
Number 3:
Saving face
(Showing off).
Number 4:
Power
(The desire to get ahead).
However…
even without these indispensables, one can become a Yakuza.
Anyhow, for the time being, anyone can."
矢代(心の中で)
「ヤクザにとって
欠かせないものとは
何かと問われたら
多分
こう答える
その1
金(を作る頭)
その2
金(を作る行動力)
その3
面子(見栄)
その4
権力
(出世欲)
ただし
欠かせないものが
欠けていても
ヤクザにはなれる
とりあえずは
誰もが」
この事例の、英語版既刊における元の英訳と、その筆者による日本語対訳は、以下のとおり。
Yashiro (in his mind)
"Suppose you were to ask what is indispensable to the Yakuza.
The answer you receive might consist of...
Number 1:
Money
(The brains to make it)
Number 2:
Money
(The power to obtain it)
Number 3:
Personnel
(As a show off of power)
Number 4:
Influence
(The drive to get ahead).
But…
even without these "indispensable" things, one can still become a Yakuza.
As things are now, anyone can."
矢代(心の中で)
「ヤクザにとって
欠かせないものとは
何かと問われるならば
俺が差し出す答えを構成するものは、多分…
その1
金(を作る頭)
その2
金(を作るための力)
その3
人員(権力の誇示/見せびらかしとして)
その4
勢力(出世欲)
ただし
欠かせないものが
欠けていても
ヤクザにはなれる
とりあえず当面のあいだは
誰もがなれる」
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◎例4
1巻「漂えど〜」より。
「人間は矛盾でいっぱいだ」と変える必要性が見えない例。また、「犯したい、犯されたい」を「レイプ(=強姦)したい、レイプされたい」と変えてしまっているのは問題が深い。矢代が自身の性的経験について、日本語で「レイプ」という表現を使ったのは、8巻に収録予定の回、つまり、ごく最近までかつてなかったと思う。
Yashiro (in his mind)
"Human beings are made full of contradictions.
I want to fuck.
I want to be fucked.
I want to torment someone.
I want to be tormented."
矢代(心の中で)
「人間は
矛盾で
できている
犯したい
犯されたい
苛めたい
苛められたい」
元の英訳は、以下。
Yashiro (in his mind)
"Human beings are full of contradictions.
I want to rape.
I want to be raped.
I want to torment someone.
I want to be tormented."
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◎例
1巻「Don’t stay gold」より。
言葉の不十分な誤訳。たしかに “doctor” も「医者」一般という意味のほかに「内科医」を指して使われることもあるが、ここでは強調もされてわざわざ「内科医」と名言されているのであるから、そのように訳出すべきと思う。
Yashiro
"He’s a terribly clumsy physician."
矢代
「そいつは恐ろしく不器用な内科医(ルビ:・・・)だからな」
元の英訳と、筆者によるその対訳は、以下。
Yashiro
"He’s a terribly clumsy doctor."
矢代
「そいつは恐ろしく不器用な医者だからな」
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◎例
第1巻より。矢代と百目鬼の最初の出逢いのシーンの会話から。
矢代のセリフ「すげぇ気に入ったよ お前のこと」が「お前に興味がわいたよ」と変えられているのを修正した。些細に思えるかもしれないが、ここは、矢代が初めて会ったときから、例外的なまでに百目鬼をたいへん気に入ったことを示す重要なセリフであり、その後の物語にも大きく長く影響しつづけてくる箇所だ。
Yashiro
"...I like the look in your eyes.
I’ve taken a real liking to you.
Unfasten your belt."
矢代
「…いい目だなあ
すげえ気に入ったよ
お前のこと
ベルト外せ」
元の英訳と、筆者によるその日本語対訳は、以下。
Yashiro
"...I like the look in your eyes.
You've piqued my interest.
Unfasten your belt."
矢代
「…いい目だなぁ
お前に感心がわいたよ
ベルト外せ」
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◎例
1巻より。矢代と百目鬼の出逢いのシーンから。
「参ったわ」の意味のニュアンスの理解がいささか不適切な例。この場合、「お手上げだ」という意味で日本語原文では使われているが、英訳版では「言葉が見つからないわ」という少し違った意味合いで解釈され訳出されている。
Yashiro
“Touché.
Impotent!
Well, but, it was a good choice you're the one whose dick I sucked.
Don't tell it to the other guys, okay?”
矢代
「参ったわ
インポか!
ま でも シャクったのがお前で正解だったな
他の奴らには言うなよ?」
元の英訳と、筆者によるその対訳は、以下。
Yashiro
"Impotent!
Wow, I'm at a loss for words.
But, it’s a good thing you’re the one whose dick I sucked.
Don’t tell anyone."
矢代
「インポか!
ワオ、言葉が見つからないわ
でも、シャクったのがお前でよかったわ
誰にも言うな」
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◎例
1巻より。矢代のマンションのベッドでの矢代と百目鬼の会話から。
いわゆる誤訳と雑訳。「ナメた」という表現の意味を「軽蔑した」と同義のように誤読している。
Yashiro
"…As always, you’re looking down at me with those disrespectful eyes…
Aah, it's alright. It gives me a thrill when people look down on me.”
矢代
「…相変わらず ナメた目で 見やがって
あー いいんだって 見下されるの ゾクゾクすんだよ」
元の英訳と、その筆者によるその対訳は、以下。
Yashiro
"…As always, you’re looking down at me with eyes of disdain.
Don’t worry about it. It's exciting when people look down on me.
矢代
「…相変わらず 俺を軽蔑した目で 見やがって
気にすんな 見下されるの ゾクゾクすんだよ」
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