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GROUP 07

◆GROUP 07

 

語感や意味、音、ニュアンスなど、
「質的な原文への忠実さをどこまで維持すべきか」を考えさせられる例群。

 

 

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◎例

1巻より。矢代と百目鬼の車内での会話から。

3点リーダー「…」「……」の過剰な省略と定数化の問題を示す好例。「…」の数によって、その場の臨場感や登場人物の戸惑いのリアルさがまったく違って伝わってくる。

 

Yashiro

"Don't tell it to the other guys."

 

Doumeki

"Okay."

 

Yashiro

"Now that I think about it, that’s the second time I’ve said that line.

This isn’t fair. Tell me two of your secrets."

 

Doumeki 

"…………

…………

…………

…………

…………

………

………"

 

Yashiro (in his mind)

"Oh oh. He’s in a real bind."

 

矢代

「他の奴らには言うなよ−」

 

百目鬼

「はい」

 

矢代

「つうか 今のセリフ言うの 二回目な

不公平だから お前のヒミツも2つ寄越せよ」

 

百目鬼

「…………

…………

…………

…………

…………

………

………」

 

矢代(心の中で)

「おーおー

困ってる

困ってる」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro 

"Now that I think about it, that’s the second time I’ve said that.

This isn’t fair. Tell me two of your secrets."

 

Doumeki

"...

..."

 

Yashiro (in his mind)

"Would you look at that. He's in a bind."

 

 

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◎例

1巻より、矢代が歌を口ずさむシーンの訳出の事例。

こうした柔軟な記号の使用によって、ここで彼が「呟いている」のではなく「歌って口ずさんでいる」ことが、適切に伝えられると思う。

 

Yashiro

"You are——the light——. 

I am a shadow—..."

 

矢代

「きみは—— ひかり——

ぼくは かげー…」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro

“You are the light…

while I’m merely a shadow…”

 

 

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◎例

2巻より。バーでの百目鬼と影山の会話に割って入った矢代のセリフから。

ダーシ「——」をひとつの単語の中に導入し、日本語原文の持つインパクトやダイナミズムを再現することも可能ではないだろうか? また、単語単位でフォントサイズを拡大することで、さらにその効果をアップさせることもできるというサンプル。

 

Yashiro

"Just wha——t do you think you're saying, you idiot!"

 

矢代

「な——に言っちゃってんのかな——

 このバカは」

 

元の英訳と、筆者によるその対訳は、以下。

 

Yashiro

"Just what do you think you're saying, you idiot!"

 

矢代

「なに言っちゃってんのかな

 このバカは」

 

 

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◎例

1巻「漂えど〜」の冒頭より。

喘ぎ声の音感や余韻をどこまで日本語原文に忠実に訳出可能かを考えるための例。余韻も間もはっとする溜めの表現も消えて、エロチックではなくなっているのを、原文のニュアンスに近づけた。

 

Yashiro

"Nn——…!

…!

Nn!

…Huh

……Nh"

 

矢代

「ン——っ…

…っ

…っ

…ッ

ンッ

…ふ

……っ」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro 

"Nghh...

Ngh!

Ngh!

Ngh.

Ngh!

Hgh.

Ngh."

 

 

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◎例

5巻の矢代と百目鬼のラブ・シーンより、同様の問題を考えるための例をもうひとつ。

なお、ここでは一カ所、話者の読み違えによる誤訳も起こっており、百目鬼のセリフ「そんなことしなくてもこんなに…」が矢代のセリフとして「お前が俺にもっと痛くしてくれないのに、なんで俺はこんなに…」と訳出されていたのを正した。

 

Yashiro

"More…!

Make it hurt more…!"

 

Doumeki

"I won’t...!"

 

Yashiro

"Do it!"

 

Doumeki

"I won’t…!"

 

Yashiro

"Hah

Nh

Nn"

 

Doumeki

"Even without doing such a thing, you’ve become so much…"

 

Yashiro

"Hah

Ha

Ah

Hah

Nn!

...!

But…

wh...y…!

Hah…!

…!

Nnh!

Hff".

 

Doumeki

"Boss…"

 

Yashiro

"Hah

Haah

———Ah!"

 

Doumeki

"Boss…"

 

Yashsiro 

"Nn

Hah

A!"

 

Doumeki

"You are beautiful."

 

Yashiro

"…!

Ng

Nn

Nnh

……Nnh…!

I’m coming…!"

 

Doumeki 

"Boss…!

My……!"

 

矢代

「もっとっ…

 痛くして…っ」

 

百目鬼

「しません…っ」

 

矢代

「しろよっ」

 

百目鬼

「しません…っ」

 

矢代

「は

 んっ

 ん」

 

百目鬼

「そんなことしなくてもこんなに…」

 

矢代

「はぁ

 は

 あ

 はあ

 ン

 …っ

 もっ

 なっ

 …んでっ

 はっ

 …っ

 んっ

 ふっ」

 

百目鬼

「頭…」

 

矢代

「は

 はぁ

 ———あっ」

 

百目鬼

「頭」

 

 矢代

「ん

 は

 あ」

 

百目鬼

「綺麗だ」

 

矢代

「…っ

 ん

 ん

 ン

 ……んっ…

 いくっ…」

 

百目鬼

「頭…っ

 俺の……っ」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro 

"More…

Make it hurt more…"

 

Doumeki

"I will not."

 

Yashiro

"Do it!"

 

Doumeki

"I will not…"

 

Yashiro

"Hah

Ngh

Nn

Even though you won't do it, why am I so…

Hah

Hah

Ah

Haah

Nh

...

I'm…

why…!

Hah…

Nh

Hff"

 

Doumeki

"Boss…"

 

Yashiro

"Hah

Haah

Ah!"

 

Doumeki

"Boss…"

 

Yashiro

"Nh

Hah

Ah"

 

Doumeki

"You are beautiful."

 

Yashiro

"…

Nh

Nh

Mph

Nnh...

I’m coming…!"

 

Doumeki 

"Boss…

My…!"

 

 

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◎例

1巻の三角との会食シーンより、矢代のモノローグ部分。

ダーシの効果と発声の音色の表現方法の訳例。

 

Yashiro (in his mind)               

"Come back…? 

——Ha…!

How stupid…

Is there even anything to “come back” to? From the start, he was——"

 

矢代(心の中で)

「戻る…?」

 

矢代

「——はっ…

馬っ鹿じゃねえ…」

 

矢代(心の中で)

「戻るも何もあいつは最初から———」 

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro (in his mind)

"Come back?

Ah...

How stupid…

Is there even anything to “come back” to? From the first, we…"

 

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◎例

「漂えど〜」のラスト・シーンより。

泣き声の音色の訳出例。美しい涙のシーンの質感により近づけた。

 

Yashiro

"……Uh

………Nh!"

 

矢代

「……うっ

………っ」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro

"Ungh!

Ngh!"

 

 

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◎例

4巻より。七原と矢代の出逢いの頃のエピソードから。

ネコを真似た笑い声の妙味ある音をどこまで活かせるかの例。

 

Yashiro

"Nya-

hahaha!"

 

矢代

「にゃっ

 はっはっはっ」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro

"Gya-

hahaha!"

 

 

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◎例

「漂えど〜」より。屋上での会話シーンから。

矢代の「キモ———ッ」という叫び声の訳例。まったく違う表現に変わっていたのを修正した。

 

Yashiro

"Grooooooss——!"

 

矢代

「キモ———ッ」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro

"That's just gross, man."

 

矢代

「それ、めっちゃキモいぜ、おい」

 

 

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◎例

4巻より。七原と矢代の出逢いの頃のエピソードから。

「~~~~」や「‼」や「……」の記号を導入することで、どれだけインパクトや雰囲気が忠実に再現できるかのサンプル。

 

Nanahara

"!!

That……! That bitch~~~~!!"

 

七原

「‼

 あ……っ

 あのアマ

 ~~~~~っっ」

 

元の英訳は、以下。

 

Nanahara 

"!

That...that bitch!"

 

 

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 ◎例

1巻冒頭より。影山宅での久我と影山の会話から。

「エロモード発動中」というようなとくに味のあるユニークな表現をどう訳出しうるかの例。また、本書ではほとんど触れてこなかったが、例えばここに「ジー」という音が出てくるが、こうした効果音(サウンド・エフェクト)や擬音(オノマトペ)をどう英語に置き換えるかの問題は、今後のマンガの英訳一般において一大課題だと思う。

 

Kuga

"I know you’re in the middle of your horny mode, but look at that."

 

Kageyama

"That?

What’s…

tha......"

 

A video-cam

"Stare——— -…"

 

久我

「エロモード発動中なのはわかったから あれ」

 

影山

「あれ? あれって… な……」

 

天井のビデオカメラ

「ジー——— - …」

 

元の英訳は、以下。

 

Kuga 

"I know you’re horny right now, but look..." 

 

Kageyama

"Huh? What…is th..."

 

A Video Cam

"Stare"

 

 

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◎例

5巻より。矢代の告白を聞いて、思わず涙した百目鬼を見ての矢代のセリフから。

原文のテキストの感触にどこまで忠実に近づけうるかを考えるためのわかりやすい訳例。

 

Yashiro

"…What…

are you crying for?”

 

矢代

「…なに

泣いてんだよ」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro 

"Why are you crying?

 

矢代

「…なんで

泣いてんだよ」

 

 

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◎例

5巻より。矢代と百目鬼のベッドシーンから。

「ダーシの導入によって、どれほど、日本語原文の持つ臨場感やインパクトを際限可能か」を示す例。


Yashiro

“Kuh…!

…Mean it…

Stop now…! 

…Just…finish already.

————!..."

 

矢代

「く…っ

 …っとに

 も…

 やめろ…っ

 …っ

 ん

 …早く、

 済ませろ

 ————っ…」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro

“Gh…!

…Mean it…

Stop…!

Just…finish already.

...!"

 

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◎例

5巻より。同上。

「単語や句や節の登場順序によって変化する、強調される部分のずれの問題」を考えさせられる例。この例の後半部分は、明らかに、原文の節の登場順序に従えば、自ずと、原文と同じ節が強調されるよう変化している。また、前半部分は、「ダーシの適切で適量の使用が、いかに表現の豊かさの再現に関わってくるか」を伝えている。

 

Yashiro

"———My 

body———

He's licking me all over my body,

as if he's trying to make every part of me his own."

 

矢代

「———俺の

 身体———

 俺の身体中舐めて

 ひとつ残らず 自分のものにするみたいに」

 

元の英訳と、筆者によるその対訳は、以下。

 

Yashiro 

"My...

body...

As if he's trying to make every part of me his own.

He's licking me...all over my body." 

 

矢代

「俺の…

 身体…

 まるでひとつ残らず 自分のものにするみたいに

俺の身体中舐めてる」

 

 

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◎例

5巻より。同上。

「もともと原文において、断片的で、文法的にセンテンスとして完結していないまま残されている語句を、わざわざ完結したセンテンスになるよう変更を加える必要性があるのか?」という問題を考えさせる例。

 

Yashiro

“I……

don’t…

want…

…any more…like this…”

 

矢代

「も…

 いや

 だ

 こんな…」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro

“I…

don’t…

want…

this…”

 

 

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◎例

5巻より。百目鬼が回想した、涙を突然溢れさせた矢代との会話シーンから。

ダーシがどれほどのインパクトや余韻をもたらすかの例をもうひとつ。

 

Doumeki 

"Boss?"

 

Yashiro

"Don’t look at me…

any more than this———"

 

百目鬼

「頭?」

 

矢代

「見るな

 これ以上

 俺を————」

 

元の英訳は、以下。

 

Doumeki

“Boss?"

 

Yashiro

"Don’t look at me.

If you do any more than this, I..."

 

 

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◎例

5巻より。パトカーでの矢代と竜崎の会話から。

波線「~~」の導入効果による臨場感の再現と、笑い声の音色や擬音の訳出の例。

 

Yashiro

"Ahaha! 

Your face looks like shit~~."

 

Ryuzaki

"What the hell are you doing here?"

 

Yashiro

"You don’t understand? Seriously?"

 

Ryuzaki

"……!

Don’t tell me you’re the one who…"

 

Yashiro

"Ding- ding- ding!"

 

矢代

「あはは

 ひっでーカオ~~」

 

竜崎

「てめ なんでここに」

 

矢代

「わかんねぇの? ホントに?」

 

竜崎

「………っ

 まさかお前が?」

 

矢代

「ピンポーン」

 

元の英訳は、以下。

 

Yashiro  

"Ah ha ha

You look like shit."

 

Ryuzaki

"What the hell are you doing here?"

 

Yashiro 

"You really don’t know?"

 

Ryuzaki

"…

Don’t tell me you’re the one who…"

 

Yashiro

"Ding— ding— ding!"

 

 

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以上、代表的な問題のパターンや今後の課題と思われる点をカテゴリー化した。

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